今日、僕が彫ったムーンブーツが、
ボストンで暮らすムーンブーツの許へ届いたと嬉しい知らせがありました。
メールには、木のムーンブーツと、
本物のムーンブーツが並んで写っている写真が添えられていました。
ムーンブーツを彫っている間、僕がずっと見たいと思っていた光景です。
ムーンブーツは目が見えません。
ムーンブーツは耳が聞こえません。
ムーンブーツには歯がありません。
ムーンブーツの背骨は歪んでいて、真っ直ぐ歩く事が出来ません。
それでもムーンブーツは、暗闇を畏れず、静寂を哀しみません。
ムーンブーツの見る暗闇に、恐怖や絶望はありません。
ムーンブーツの知る静寂の中に、寂しさや悲しさはありません。
床から伝わって来る家人の慣れ親しんだ足取や、
背中にそっと置かれた掌のぬくもりが、
いつもムーンブーツを暖かく包み込んでいるからです。
制作期間中、ムーンブーツのその強さや逞しさが、
プライベートな出来事で打ちのめされそうになっている自分を
何度も奮い立たせ、鼓舞し、支えてくれました。
このお仕事を下さったのは、
ムーンブーツと運命的な出会いをし、
今も共に暮らしている女性の旦那さんと、その女性の妹さんです。
その女性への、内緒のお誕生日プレゼントとして。
妹さんからのメールには、おそらく旦那さんが撮ったと思われる、
その女性が箱からムーンブーツの木彫を取り出し、
包みを開けて行く様子が収められた何枚かの写真が添えられていました。
梱包を解いて、僕が彫ったムーンブーツを目にして泣いてくれている写真。
箱から取り出して愛しげに頬を寄せ、カメラに優しい笑顔を向けている写真。
ちょっぴりブレてしまっているそれらの写真を、僕は一生忘れません。
本当に嬉しそうに泣いてくれていたから。
本当に優しい笑顔で微笑んでくれていたから。
どんなに高額な対価よりも価値のある、一番得難い報酬。
今の僕に、一番必要なものを与えて下さった事に心から感謝しています。
暖かな労いの言葉の中に添えられた一文、
“You have captured Moonboots soul.”
どんな誉め言葉よりも嬉しい一言でした。
この先も、またこんな素敵なお仕事に巡り会えると良いな、と
心からそう思います。